東京高等裁判所 昭和26年(行ナ)24号 判決
原告 西村信雄
被告 特許庁長官
一、主 文
昭和二十六年抗告審判第三六一号事件について、特許庁が昭和二十六年七月二十四日にした審決を取り消す。
訟訟費用は、被告の負担とする。
二、事 実
第一請求の趣旨
原告は、主文同旨の判決を求めると申し立て、被告代理人は、原告の請求を棄却するとの判決を求めた。
第二請求の原因
一、原告は、菌蕈種苗簡易製造法を発明し、昭和二十五年十二月二十八日発明の名称を椎茸種木簡易製造法としてこれが特許出願をなしたが(昭和二十五年特許出願第一六八四九号)、その後昭和二十六年三月二十六日右特許出願の訂正補充を申請し、同時に発明の名称を菌蕈種苗簡易製造法と改めた。しかし審査官は、昭和二十六年四月二十一日拒絶査定をしたので、原告は同年五月十一日抗告審判請求をなしたところ(昭和二十六年抗告審判第三六一号)、特許庁は、昭和二十六年七月二十四日「本件抗告審判の請求は成り立たない。」との審決をなし、その謄本は同年八月三日原告に送達された。
二、しかしながら、右審決は(イ)原告の出願明細書に記載した発明の内容を誤解し、(ロ)要旨の変更についての解釈及び認定を誤まり、(ハ)引例の特許の内容についての認識に従つて(ニ)原告の発明と引例の特許との差異について、重大なる誤びように陥つている。
以下これを詳説すれば、次のとおりである。
三、審決は、原告の特許出願の内容を、「原木を切断して、木片板又は角柱となしたものを、予め日光乾燥した後、その全面に純粋培養の椎茸菌糸を密着せしめ、適温適湿の状態に保つて菌糸を発育させる椎茸種木簡易製造法」を要旨とする発明であると説明し、あたかも「予め日光乾燥をすること」が、原告の発明の内容をなすものであるように解している。なるほど明細書中「発明の性質及び目的の要領」の前半の記載のみを見れば、或は、原告の出願は、種木たらしめんとする木片を、予め日光乾燥して、雑菌の菌糸及び胞子の死滅を図つておくもののようにも見えるかも知れないが、その後半の記載を見れば、雑菌の胞子が混入していても差支ないことが判り、次いで「発明の詳細な説明」にある「雑菌の繁殖せる恐ある場合は日光乾燥によつて雑菌の死滅を図りたる後云々」、及び「然る時は、木片には生活力ある雑菌の菌糸は存在せず、仮りに雑菌の胞子が木片の日光乾燥後多数混入したりとするも云々」とある記載を全体と関連させて通読するときは、出願の内容には、「雑菌の繁殖の恐のない木片を使用する場合は、たとえ雑菌胞子が附着している恐のある場合であつても、日光乾燥によつて殺菌処理をするものではない。」という趣旨を当然包含するものであることは明白である。すなわち、「予め日光乾燥すること」は、原告の出願の内容をなすものではなく、前記審決の認定はこれを曲解したものといわなければならない。
四、原告は、前述のように、昭和二十六年三月二十四日明細書の一部を訂正補充し、審査官は、右訂正を許容した。しかるに審決は、「抗告審判請求人は、昭和二十六年三月二十四日付で訂正明細書を提出しているが、その記載によれば、菌の種類及び原料たる鋸屑の点で範囲の拡張があり、当初の出願要旨を変更することゝなるから、この訂正は許容できない。」としている。しかしながら、特許されない間は、その出願内容にいかなる変更を加えても、特許後の変更訂正と異り、対外関係において何等影響を及ぼすところがないから、前出願を利用してこれとは全く内容を異にする明細書に変更せんとするが如きものでない以上、明細書の訂正変更は、出願者の自由である。
原告の出願の内容は、目的菌と雑菌との木片への移行繁殖競争において、その出発点から目的菌を有利な態勢におき、雑菌胞子が発芽して繁殖を開始するまでに、目的菌糸をして木片の全面を占領せしめ、優勢な状態を確保した目的菌によつて雑菌を狭少部分に包囲し、抗菌素(抗毒素)の分泌によつて雑菌の繁殖なき種木を得るということが眼目であつて、このことは訂正の前後を通じて、何等本質的な差異を生じていない。菌の種類を拡張したとしても、出願の方法で種苗を育成せられる菌の種類は、椎茸、榎茸、平茸等おのずから一定の制限があり、また原料においても、鋸屑もひとしく木片であり、たゞ細木片たるにすぎない。
五、審決は、引用にかかる特許第一八〇八九一号の内容を解し、同特許の明細書には、「濶葉樹又は揮発性分を除去した針葉樹から木口が直形三角形である棒体を截り出し、それに適宜間隔に細切切目を施したものを、予め純粋培養した蕈菌糸塊を含有する培養基中に埋入し、該蕈菌種を該棒体に繁殖蔓延させることが記されている。」と記載している。しかしながら原告の出願と引例とを対照比較するに最も必要な事項は、いかなる処理方法をもつて木片に目的菌を繁殖させるかという方法であるのにかかわらず、殺菌処理とか純粋培養とかの事実については、全然記載していない。
六、次いで審決は、原告の出願と内容と引例との異同について、次のように述べている。
「木材に蕈菌を繁殖させて種木を製造する点で、両者は一致しているが、引例では木材を予め加熱殺菌するのに対し、本願では日光乾燥のみで加熱殺菌を行わないこと、及び引例では菌糸塊を含有する培養基中に木材を埋入するのに対し、本願では菌糸を木材の全面に他動的に密着させることの二点において、両者は差異がある。」としている。
しかしながら、前述のように、日光乾燥は原告の出願の内容をなさないばかりでなく、引例においては培養基中における菌の培養は純粋培養であるから、加熱殺菌をした木片を埋入するに当つても、雑菌胞子が附着しないように煩瑣な無菌的処理をしななければならないのに対して、原告の出願では、木片に雑菌胞子が附着していることは差支えないので、菌糸を木片の全面に密着させるに当つて、無菌的に処理するというような煩瑣な手続を必要としない。これを要するに、前者はいわゆる無菌培養を根本原理とするに対し、後者は、非無菌培養を原理としている。従つてその取扱手続においても、引例では木材に予め殺菌処理を施すのに対し、原告の出願では殺菌処理を施さず、目的菌糸の移植についても、前者では、いわゆる無菌的処理により、菌糸塊を含有する培養基中に木片を埋入するに対して、後者では無菌的処理をなすことなく、菌糸を木片の全面に他動的に密着せしめ、その当然の結果として、引例においては、その予備的措置として加熱殺菌、無菌的処理に多くの費用と労力とを要するに反し、原告の出願においては、かゝる費用と労力とを必要とせず、経費は僅少であり、生産能率を高からしめている。以上の如く両者の間には甚だしい差異があるのに、審決は全然これを観過している。
七、また、審決は、原告の出願の方法が引例から容易に類推実施せられるものだという結論を出すために、「植菌された木材には一般に菌糸がよく繁殖し、培養条件が適当ならば、木材の表面には発育した菌糸が密接して薄膜状をなすことは当業専門家に周知の事実であるから、引例の如く、菌糸塊中に木材を埋入して蕈菌を繁殖させる場合も、種木の周辺は雑菌を含まない菌糸で取り捲かれるにいたり、好条件下ではその表面が発育した菌糸で覆われることが見られる筈であつて、この状態から、本願方法の如く、木片、板等の全面に椎茸菌糸を密着させて菌を繁殖させることは、当事者ならば容易に類推して実施できる範囲にある。」といつている。しかし右の結論は、前述のように原告の出願の方法で曲解され、その基礎の上に造り上げられた推論であつて、適当な判断ではない。原告の出願の方法は屡々述べたように、木片に何等殺菌の処理を施すことなく、目的菌糸を繁殖せしめ、しかも雑菌の繁殖なき種木を得ることを特色とし、加熱殺菌によつて、目的菌と競合する雑菌胞子の存在を許さない引例の場合とは、その根本の原理を異にするものであるから、前者が後者から、容易に類推される如きことはあり得ない。
八、最後に、審決は、殺菌処理については一般に菌を取り扱う場合は雑菌の繁殖を防止するため加熱殺菌することが極めて常識的であるが、条件がよければ殺菌を省略して単なる日光乾燥のみでも殺菌を行つたときと同様な結果が得られることも一般常識から見て明らかであるから前記の如く他の操作に新規性が認められないとするならば、殺菌を省略することだけでは発明を構成する程の条件と見なし得ないことは明らかである。」といつているが、これまた原告の出願の方法を誤解したによるもので、原告は殺菌処理をしないで殺菌処理をしたと同様の結果を得ることを特色としている。かゝる労力と経費と時間とを是非とも必要とする一つの方法が行われている場合、これらの一切を省略し、しかも同一の結果が得られる簡易な方法が考案された場合、その考案は、当然発明を構成するものといわなければならない。
第三被告の答弁
一、原告主張の請求原因一の事実は争わない。
同二、以下について次に略述する。
二、先ず、原告は同四において、審決が訂正明細書を要旨の変更と認めて採用しなかつたことを非難している。しかし出願中に要旨を変更することのできないことは、特許法第八条、第九条、特許法施行規則第十一条第二項、第十二条の規定によつて明白であつて、しかも、原告の訂正明細書は、菌の種類及び原料において、出願当初の明細書に比して、範囲を拡張したことは明らかであるから、右法令に照して要旨の変更となることを免れない。なお本件の場合、特許請求範囲の拡張があつてもなくても拒絶理由には直接関係がないから、査定の場合と同様、審決においてこれを不問に附することができたものであるが、議論の対象を明確にするために要旨の変更を指摘したのにすぎない。
三、原告は請求原因三及びその他の箇所において、審決は原告の出願明細書の記載を曲解したと主張しているが、かかることはない。本件の場合原告の「特許請求の範囲」の表現が甚だ不明瞭であるから、明細書全体の記載から発明の要旨を認定したものであつて、明細書はその第一頁及び第三頁において、それぞれ「日光乾燥に依つて」、「これを日光乾燥して」と記載し、唯第二頁だけには、「雑菌繁殖の恐れある場合は日光乾燥」と記載しているが、原木は、伐採後常に直ちに使用するとは考えられないから、雑菌繁殖の機会は多いと思われる。又一方日光乾燥は特に費用のかかることではなく、木材を放置してもある程度は日光に当つて乾燥される筈であつて、本件方法では程度の差はあるが、日光乾燥される場合が多く、少くとも日光乾燥を行う場合を含むことは明らかであるから、この点審理を尽くすため一応触れたのに過ぎない。木材の日光乾燥は引例の方法でも行いうることであるから、この点が引例との相違であるなぞと考える筈もない。また日光乾燥は多少殺菌に寄与することもあるが、細菌学にいわゆる殺菌に包含されないことは周知のことで、審決でもこの両者を混同してはいない。
四、最後に、原告の出願の方法と引用方法との比較について、原告は請求原因三以下において繰返えし述べているが、その要旨は、(一)前者では種木となる木片を殺菌しないが、後者では殺菌する。(二)前者は木片の周囲に菌糸を密着させて覆う。後者は菌糸塊の中に木片を埋入するという二点に要約することができる。一般に菌を培養するとき雑菌の繁殖を防ぐには、なるべく無菌的に処理する方がよいことは現今では当業者の常識となつている。椎茸栽培も稚木の製造までは、なるべく殺菌を行い、無菌的に処理するようになつたが、例えば、従来一般に行われている椎茸栽培に一度使つてよく菌が繁殖したほだ木を細断して種木にする場合には、当然殺菌しない。またほだ木を準備し植菌してから椎茸を採取するまでの工程は、なるべく純粋な菌を植付ける以外は自然状態下に放置して栽培するのが普通である。このように椎茸菌を扱う場合、種木やほだ木等を加熱殺菌する方法が安全であるが、これを行わない場合には必ず栽培が失敗するという程、殺菌は絶対的な条件でもないから、種木製造に当り種木となる木片の加熱殺菌を省略することは当業者の容易に考え得ることである。また前述のようにほだ木に椎茸菌を繁殖させることは、自然状態下で行われるから栽培中に雑菌は自由に侵入するが、最初に雑菌が繁殖していない間に所要の菌が先に発育することによつて他の菌の発育を抑制し目的を達しているわけである。この場合椎茸菌の量が多い程他の菌が発育し難いことはよく茂つた樹の下には他の植物が生え難いことゝ同一の理である。そして審決に示したように、植菌された木材の表面が発育した菌糸で薄膜状に覆われることが屡々見られることから考えて、純粋培養した菌糸は貴重であるが多量にありさえすれば、これを種木とする木片の周囲に密着被覆させて前記のような椎茸菌の優勢な状態となして繁殖させることは、当業者ならば容易に考え得ることである。更に引例に記載されたように、菌糸塊の中に木片を埋入しておきこれに菌を繁殖させて種木を作る方法は、森喜作氏の案出した方法であるが、この流儀によると種木製造法と、本願の木片の周囲に菌糸を密着被覆させる方法とを比較して見ると、この密着被覆という手段に特定の条件がない場合には、殺菌の有無以外では両者は区別できない位類似した処理であるとも見られるのであつて、木片埋入の形式によつては、木片の周囲を菌糸で被覆することと同様な場合があり得ると考えることもできる。原告の出願の方法は、その明細書の記載から見ると、前述のように既知の事実と顕著な思想的差異がなく、当業者の容易に考え得る程度の技術であつて、原告の特許請求する範囲では新規な発明を構成するものとはいい得ない。
第四(各証拠省略)
三、理 由
一、原告主張の特許出願から抗告審判審決書謄本の送達にいたるまでの、特許庁における手続に関する事実は、当事者間に争がない。
二、よつて先ず原告主張四の要旨の変更の有無の点から判断する。原告が当初特許庁へ提出した特許願書の記載と、次いで提出された特許出願訂正補充申請書の記載とを対比して見ると、前者は、木片、板、角柱の切断面の全面に椎茸菌を密着させることを発明の内容としているのに対し、後者は、木片、板、角柱の外に鋸屑(普通の鋸屑を含む。)をも対象とし、また目的菌をひとり椎茸菌糸に限らず、広く菌蕈菌糸としている。この場合、目的菌の種類の拡張は、或いは原告の主張するように、おのずから一定の制限があり、榎茸、平茸等椎茸と同一性質を有するものを包含せしめたものにすぎず、全然別個の発明を構成するものでないとしても、前者の木片、板、角柱と後者に包含せられる鋸屑とは、「その全面に菌糸を密着せしめる。」という本件発明の内容殊にその実施等に関連して考察すれば、その性質を著るしく異にし、両者はそれぞれ別異の発明の内容を構成するものと解するのが相当である。特許法が一つの発明について一つの特許権を認め、且つ、同一の発明については、最先の出願者に限り特許することを定めた趣旨は、また当然に別個発明の内容を構成するような明細書の変更は、要旨の変更として禁止しているものと解さなければならない。原告は、審査官が変更を許容したのに対し、審決がこれを許容できないものとしたのは不当であると主張するが、審査官が原告の訂正を許容したとの事実はこれを認める証拠がないばかりでなく、(拒絶査定書の記載は、原告の訂正が要旨の変更ではなく、かりに許されるものとしても、結局引例と同一の発明と認めざるを得ないと説明しているものと解すべきである。)要旨の変更であるかどうかは、審査、審判のいかなる過程においても、審査官、審判官は職権でこれを調査、判断すべき事項であるから、審決が原告の訂正明細書の記載は、当初の出願の要旨を変更するものとしてその訂正を許容しなかつたことは相当である。
三、訂正補充申請が許されないことは前述のとおりであるから、専ら原告が当初特許庁に提出した特許願書について、原告の特許出願にかゝる発明の内容を検討する。
右特許願書の明細書中特許請求の範囲の項には、「原木を切断して之を木片、板、角柱となし、其の切断面の全面に椎茸菌糸を密着せしめ、椎茸菌糸の急速なる移行蔓延を図る事」と記載されているだけで、その表現は、甚だ明確を欠いているか、これを明細書中他の各項の記載の全体と関連せしめて考察すると、原告の出願にかかる発明の内容は、審決にいうように「予め日光乾燥すること」を構成要素とするものでなく、単に「原木を切断して木片、板、角柱となし、これに雑菌の菌糸が存在しない状態において、切断面の全面に純粋培養の椎茸菌糸を密着せしめ、適温適湿の状態に保つて椎茸菌糸の急速な移行蔓延を図る椎茸種木の箇易製造法」であると認定するのが相当である。けだし、右明細書中「発明の性質及び目的の要領」の項及び「発明の詳細なる説明」の項には、被告代理人が指摘するように、「原木を切断して木片、板、角柱となし、日光乾燥をする」旨が記載されているが、「発明の詳細なる説明」の他の箇所にはまた「雑菌の繁殖せる恐ある場合は、日光乾燥によつて雑菌の死滅を図りたる後云々」と記載されていて、これらの記載を全体として観察するときは、本件出願にかかる発明においては、椎茸菌糸の移植にあたり、原木片等に椎茸菌糸の移行繁殖を妨げる「生活力ある雑菌の菌糸」が存在していない以上、雑菌の胞子まで悉くこれを除去することを必要とせず、従つて後述のように殺菌処置を要しないのはもちろん、日光乾燥をするのも、これらの殺菌の菌糸が存在している場合にこれを除去する手段として採られたもので、雑菌の菌糸が存在しない場合には、必ずしもこれを必要としない趣旨と解するのが相当だからである。
四、進んで原告の出願にかかる発明の内容と、審決が引用した特許第一八〇八九一号の内容(乙第一号証)とを対比して考察すると、引用の方法においては、(一)種木たらしめんとする木片を予め加熱殺菌し、(二)これを蕈菌糸塊を含有する培養基中に埋入して菌種を蓄殖蔓延させるのに対し、原告出願の方法では、前述のように(一)種木たらしめんとする木片等を雑菌の菌糸が存在しない状態におき、(二)その切断面の全面に純粋培養した菌糸を密着せしめ、菌糸の急速な移行蔓延を図ることである。
よつてその異同を考察するに、引例における加熱殺菌は、いわゆる無菌的処理を目的とするものであつて、これがためには相当の経費と労力とを必要とするものであるのに反し、原告の方法は、かゝる予備的処理を必要としないのみならず、よしこれに雑菌の菌糸が存在し、日光乾燥を施こさなければならない場合であつても、これは細菌学にいわゆる殺菌に包含されないことはもちろん、その方法も極めて簡単容易であつて、費用労力は比較することもできない程僅少である。しかも引例の方法においては、無菌的に処理してある結果、木片を培養基中に埋入するだけで容易にその表面に菌種を繁殖蔓延させることが可能であるのに反し、無菌的処理を行わない出願の方法においては、同一の効果を得るためには、木片等の切断面の全面に菌糸を密着せしめなければならない。そしてこれがためには、多量の菌糸を相当の圧力を以つて、木片等の切断面の全面に附着せしめることを要し、――この点が、さきに、木片、板、角柱と鋸屑とを別箇の発明の内容とした理由である。――単に木片を培養基中に埋入するに過ぎない引例の方法とは、その処理方法について著しく相違している。しかも予め木片等に加熱殺菌を施さないことゝ、右菌糸の処理方法とは、相互に密接な関連を持つものであつて、原告の着想の全体は、引用にかゝる特許明細書の記載からしては、容易に類推して実施できる範囲にあるものとは認められない。
して見れば、原告の出願は、前記引例から容易に実施し得る程度のものであるとの理由により、特許法第四条第二号、第一条を適用した審決は、失当たるを免れない。
よつて、原告の請求を認容し審決を取り消し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八十九条を適用して主文のように判決した。
(裁判官 小堀保 原増司 三宅多大)